鏤空破界!APの新作が魅せる、フライト・トゥールビヨンの極致

最近、オーデマ・ピジャ(Audemars Piguet)が「CODE 11.59」シリーズの新たな傑作を発表した。その名も「オートマティック フライング トゥールビヨン スケルトン」(Reference: 26601NR)。この新作は従来の手動巻きモデルを継承するものだが、それ以上に現代的なライフスタイルに即した、利便性と美意識の両立を目指したモデルとして注目されている。
AP伝統の「スケルトン」美意識
そもそも「スケルトン(镂空)」加工と「トゥールビヨン」は、同社の代名詞ともいえる存在だ。APは1930年代からこの技法を駆使しており、王道の「ロイヤル オーク」をはじめ、かつての「ミレッシモ」や「ジュール・オードマール」、そして現在の「CODE 11.59」に至るまで、そのDNAは脈々と受け継がれている。
特にAPのスケルトンは、単なる「削ぎ落とし」ではなく、建築的な力強さと構築美を重視するのが特徴。今回の新作も、従来の正統派ドレスウォッチとは一線を画す、複雑かつ奥行きのあるディスクレイアウトが光る。
Cal.2980が織りなす、立体的な光と影
今回の主役は、新たに開発されたCal.2980 自動巻きムーブメントである。スケルトンウォッチは、ブランドのメカニカルな実力と、それを飾る装飾技術(フィニッシング)の自信の表れでもある。
このCal.2980を目の当たりにすると、そのディテールの緻密さに驚かされる。各部品には、サテンブラッシュと鏡面研磨が巧みに施され、光の当たり具合で表情を変える。また、放線模様や渦巻き模様(クル・ド・Paris)も随所に散りばめられ、特にゼンマイ桶のブリッジには象徴的なV字型のバリ(V形倒角)が6ヵ所も施されており、細部へのこだわりがうかがえる。
さらに視覚的インパクトを高めるのが、黒を基調としたメインプレートと、ゴールドで彩られた上下のポスト(軸受)のコントラスト。この「白と黒」あるいは「シャンパンゴールドとブラック」のコントラストが、見る者の目を釘付けにする。
浮遊するトゥールビヨンの美
6時位置に配置されたフライング トゥールビヨン(浮动式陀飞轮)は、従来の横断ブリッジを排除。片持ち式の構造により、回転するトゥールビヨンがまるで空中に浮かんでいるかのような、圧倒的な立体感を演出している。
もともとトゥールビヨンは、地心引力による誤差を相殺するための「実用的発明」であったが、現代ではその回転するメカニカルな美が主役となっている。AP独自の環状レイアウトとスケルトンデザインは、このトゥールビヨンを邪魔することなく、むしろその存在感を最大限に引き立てている。
造形美を極めたケースデザイン
ケースデザインも見逃せない。「円の中に八角形」をコンセプトにした「サスペンデッド ケース(悬浮式表壳)」は、まるでサンドイッチのような構造。上層と下層はラウンド、中層のみが八角形となっており、今回のモデルでは上下に18Kローズゴールド、中層にブラックセラミックを採用。
このセラミックとゴールドの双色(Two-Tone)効果は、洗練されたモード感を醸し出す。ちなみに、APはセラミックの研磨にも非常にこだわっており、その深いサテン仕上げは他ブランドとは一線を画す(研磨時間は金属の約8倍とも言われる)。
また、風防はドーム型ではなくフラット型を採用し、ノーベゼルのような「ノーフレーム」感覚に近い、すっきりとした視認性を実現。直径41mm、厚さも手動巻き版に対して僅か1.1mmの増加に抑えられたことで、現代的なサイズ感と、実用性の高い着け心地を両立している。
まとめ
「CODE 11.59」シリーズのこの新作は、APが長年培ってきた「スケルトン美」と「トゥールビヨン技術」の集大成ともいえるだろう。複雑な構造美でありながら、その着け心地は優しく、現代のアーバンライフに寄り添う存在感を放っている。
制表技術と美学が精妙に交差するこの時計は、まさに「手首に纏う芸術品」と呼ぶにふさわしい、同社在籍作品中でも最も高い識別度を誇る一振りである。